若林 勇人 写真展「消去」

2010年9月1日(水)〜30日(木) 作家略歴     写真集

C prints, 32x38inches edition of 1, 20x24inches edition of 10, 16x20inches edition of 10, with Hayato Wakabayashi's signature and edition notations                                                  

       
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断続的に繰り返される爆発。尾根に立つと強風が吹きつけ耳に音が伝わるというよりも直接体に爆発の振動が響き音は震動だと体感する。海から吹き上げる強風 がカメラを三脚ごと倒しそうになり支えながらルーペをのぞき冠布を押さえる。蛇腹に当たる風を体と冠布で遮ると手を離してもそれは体に張り付く。灰が降り 続けカメラや帽子につもりフォルダーの引き蓋を引くたびにざらざらとした感触が指に伝わる。数百メートル手前に熱せられた岩の固まりが落ちたと思えば次の 瞬間には頭上を水飴のような状態のものが飛び越えていきその軌道を追う。医師や病院はないことを聞かされていたので爆発の度に撮影をするのをやめて下山し たくなるが日も傾き夜が近づいてくるともうどうでもよくなってくる。

本土行きのフェリーの欠航が決まる。前日から海は大時化で漁船は大きな港がある島に避難するか陸に揚げられている。窓に木の板を打ち付けたりトタン屋根の 補強を急ぐ。夜になると風が強まり木々を揺らす風は巨大な管楽器のような低音をならしつづける。やることもないので自治会長と若い漁師で焼酎をのみ伊勢エ ビの安否をみなで気遣う。翌朝風はよりいっそう強まり海に向かうと港は波に隠れ何も見えなくなっている。風にあおられ立っているのも難しい波の飛沫が下か ら吹きつける。厳重に防水したカメラもどこからともなく潮水を含んだ水で濡れている。すこし離れた所においた車の中でフィルムをつめると思わず車内からの 光景に唖然とし出て行くかためらう。波際までのチキンレースを始めるが波は不規則で全身波をかぶり足を取られそうになる。足を踏ん張ることと足場に神経を 集中する。

絶対的な大きさ、荒々しい力、圧倒的で無関心なもの、固体から液体、気体へとの密度から拡散に向かう力と密度の移動にかつてこの地球を作ったであろうその 原始的な力の一端を垣間見た。 個人的な思いなどには無関心などうしようもない力がつくり出す変化の過程がそこにはあった。日常的な生活をしているこの場所もその力によってかつて私たち の島を大陸から引きはがし、不動の物と思っている私たちの足下の大地はいまでもほんのわづかづつではあるが形を変え、移動を繰り返している。

波が岩壁に当たり岩肌を削り取り、その衝撃の逃げ道を探し上へと一気に昇る。地中深く蓄えられたマグマが地表にあふれ出し新たな地表をつくりだす。    

若林勇人


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