大岡隆志 写真展「記憶の扉」

2013年3月1日(金)〜23日(土)     作家略歴


Gelatin silver prints, with Takashi Oooka's signature and edition notations

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 久世光彦はその随筆の中で、胎児の時の記憶があると語っている。 僕の最初の記憶は、3才の頃ひとりで遊んでいたこと。その当時住んでいた家は小高い丘の上にあって、丘のてっぺんには浄水場があった。浄水場の周囲は、 鉄条網で囲まれ、その柵に沿って雑草の生い茂った小道をしばらく行くと、セメントで作られた雑な階段があったことを記憶している。その階段を登った所に裏門があり、その門はなぜかいつも開いていた。その中は3才頃の僕にとってのワンダーランドだった。 湧水があったのか、どこからか水を引いていたのか解らないが、数カ所、水を張ったプールがあった。 その傍らの草地で金色の羽を煌めかせて群れて飛び交う赤とんぼを、虫取り網をむちゃくちゃに振り回して捕っていた事を覚えている。向側にはふたつみっつ重なっている円錐形をした砂山(5、6メートルはあっただろうか。)があった。 
 砂山にはぽつぽつと小さな穴が無数に開いていて、その穴を中心に熱い砂を両手で掬うと、かげろうの幼虫を捕まえては遊んでいた。
 ある時、八重桜のむせるような満開の下に、半ば白骨化したイタチの骸を見つけた。 最も印象に残っているのは、羽化したばかりの薄荷色したあぶらぜみに、蟻が群がっているのを見つけた時だ。助けようと思ったが、何故か解らないが、はかない命の美しさに感動した事を覚えている。今の作品作りの原点は、この幼き時の記憶にあるのかもしれないと思っている。

 

 


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