城林 希里香 写真展「反芻」

2010年5月2日(金)〜31日(土) 作家略歴     オリジナルプリント 写真集

C prints with Kiriko Shirobayashi's signature and edition notations

       
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幼い頃よく、白い紙に自分の心の中のもやもやしたものを、思うがままに書いては捨てた。それを誰かに見せる事は必要でなく、ただ、自分の中から吐き出し、受け入れると言う行為であった。これが、いつか、私の反芻の方法となる。

朝、目覚めたら、何もかもが元どおりにもどっていれば良いのに。以前、そう心に願ったことがあった。消え去りたかった嫌な現実は、嫌な思い出となり、心に残り、波が行ききするかのように、時々消えては、またやってくる。忘れようとすればするほど、心に残った。私は思った、忘れるのでなく、それと共存することが必要なのだと。

黒板の写真を最近よく撮るようになったのは、沢山の人の思いや着想がつまっているこの消去可能なオブジェクトに、私の風景写真に不思議な関連性を見いだしたからだろうか。私自身も子供の頃のように、黒板に私の心に残ることを書いて消す。 黒板をみていると、時々消し残された文字を見つけることができる。その文字を組み合わせてみながら、想像を膨くらませる楽しむ。これらは人々が風景写真や、風景そのものを見る時に、何かの思い出などと重ね合わせてみるのと良く似ているように思う。

ー昨年前の冬、私の父が生まれ育った場所を旅した。いままでにも、ここを撮影する機会は数多くあったのだが、それらの風景に関連する様々な思いが先にたち、長い間それに向き合うことができなかった。この思い出の中に残る見慣れた風景を暫く見つめているうちに、私は自分が既に向き合うことができているという事を感じた。時だけが静かに流れる、その変わらない風景がもつ、寂しさと懐かしさが入り交じった思い出は過去のものとなっていた。

これらの風景を撮影し、ひとつのオブジェクトとして見つめることが私の反芻の方法となっていることに気づく。 これらのイメージは互いに繋がっていないようであるが、私の中では、これらの内と外に存在する風景は、互いに繋がっている。

反芻の過程がその形にならない空間をうめ、つなぎとめてくれた。


城林 希里香


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