岡崎 正人 写真展「掌の残像」不確かな希望

2022年7月1日(金)〜30日(土) 作家略歴 作家HP

       
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「掌の残像」不確かな希望

最初にフィルムがあった。
それは大きなレントゲン用のシートフィルムで、ずいぶん昔に、期限切れの廃棄品を譲り受けたものだ。

何度か引っ越しても捨てられずにいて、10数年前に今の家に移ってからは暗室の隅に保管。
箱に書かれた使用期限は1980年頃だから、普通に考えればゴミである。

一度、思い立ってベランダでテスト撮影しようとしたら、コードノッチがない。
その一枚を明室で確認してみると、、、裏表が同じだ。
後から知ったのだが、レントゲンのフィルムには、両面に乳剤を塗って、裏表なく使用するものがあるようだ。

気を取り直して、4x5インチにカット、ベランダから撮ると、ぼんやりと写った。
その時のカブリ濃度は1.0くらい。コンタクトなら、プリントできそうなネガであった。
ああ、使えるじゃないかと気が緩んで、それからまた10年が過ぎた。

このフィルムで本格的に写真を撮り始めたのは自粛ムードの2年前だ。
フィルムの箱には Panorama Dental X-ray film の文字、、、
歯科医用のレントゲンのパノラマであるから、顎全体を撮影するフィルムのように思われる。
フィルムのサイズは30cmx15cm、四つ切の印画紙の下を切り落とした横長で、
ピンホールカメラを作れば、べた焼きでプリントになるサイズだ。

最初のカメラは、粗大ごみに捨てられていた、インテリア用のオイル缶だった。
スツールになるほどの大きさであるから、一枚撮るとフィルムの交換に暗室に戻らなければならない。
それだけならよいが、、、その大きさと、ボロい外見ゆえに、
海岸で露光中のカメラが、ゴミの不法投棄と間違えられて警察に通報されるというトラブルがあった(笑)

カメラらしい?外観は重要で、新品のペンキ缶を購入し、三脚も付くようにした。
やや小ぶりになって、フィルム交換は車内のダークテントでできるようになり、
一日に数枚と、スローペースではあるが、自宅の周辺で撮影するようになったのである。

写り具合はと言うと、10年前のカブリ濃度は1.0ぐらいだったが、
新たに試してみると、未露光でも2.0近くある。
露光しなくても真っ黒なネガ、撮影すると、真っ黒のネガの中にぼんやりと何かが写る。

いろいろと改良はしたが、40年前のレントゲンフィルム、どんなに頑張ってもちゃんとは写らない。
それが魅力?となって、毎日撮影を続けて、1年で300枚のフィルムを使いきってしまった。

撮影地は、自宅のある房総半島周辺、自粛真っ只中であるから遠くにはいけない。
海沿いに足を伸ばして茨城までだ。

カメラはペンキの缶のピンホール、ファインダーは無いが、改良を重ねて100度近い画角がある。
太陽は反転し、ぼやけた空に雲は流れる。
私には見慣れた場所ではあるが、仕上がったプリントは別の惑星のようだ。

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展示作品概要
大型のピンホールカメラ(12x6インチ)による、レントゲンフィルムで撮影した風景作品。
さまざまなケミカルトーニングを施した、シルバーゼラチンのコンタクトプリント(14x8インチ)25点を展示。
使用したフィルムは1980年頃に製造されたものです。
撮影に使用したカメラも展示いたします。
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岡崎正人


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