「迷宮/WANDERING」

ヨン・アーウィン
・シュタヘリ
Jon Erwin Staeheli

2015年8月発行
3,500円+税
上製本/写真65点
サイズ  270×260×15mm

HOME   作家HP

 

霧を通り抜けると目の前に未知の世界が広がる。
差し込む光を受け、濡れた木々がきらきらと輝く神秘の光景。
まるで異世界と我々の住む世界の狭間にいるようだ。

不意に我々の世界が楽園の様に思える。
−−−− 居心地がよく、守られている安心感。

これこそ私達が求めている感覚だ。我が家に帰りたいと願っている。
しかし、雨の中、霧の中ここに立ち、ずぶ濡れになり凍えている。

風景は我々人間の手により、我々の都合で美化されているが、
雨・霧・黄昏時の微光こそ風景を形創る新しい自然の振付だと感じる。
この振付は美しく、驚きに満ちている。たとえそれが脅威であっても。
風景を人為的に形成する目的は何か、自然の振付は我々に疑問を抱かせ、
全く新しい意識を芽生えさせる。

束縛より自由
支配よりあるがままの自然
秩序より無計画
美学より自然の美

森や自然の中にいると、時々演劇を観ている放浪者の気分になる。
もちろんこの自然の演劇は私の為に上演されている訳ではない。
それは自然に起こっている偶然の賜物であり、私が好もうが無関心であろうが、
その演劇は私の周りで起こっている。

私の妄想・想像がこの演劇に加わっているのかもしれないが−−−−

一方で、もしかしたら日常事に意識が引き戻され、
私の周りで起こっている自然の現象を何も感じていない、見ていない、
気づいていないのかもしれない。
家に帰って後々、
回想にふけりおぼろげな記憶の中で見落としていたものに気付く。

この世界において、私一個人の存在は壮大な計画のほんの一部にすぎない、
と気付き安堵する。
同時に私の周りの自然が成長し始め、現実になり、美しくなり、自立する。
自然を守ろうとする責任感を私はようやく手放すことができる。
私はただ尊敬するだけでいいのだ。ノアの洪水を生き残ってきた自然は、
私にその不思議を教えてくれる。
これは新しい意識だろうか?私が気付いていなかっただけだろうか。

自然の印象は儚く、夢の世界に生きることは出来ないが、
時々異世界の光やその悦びを味わうのも良い。
ほんの束の間、日常から離れ自然の迷宮を探索しに出かける必要が、私にはある。

    

(株)冬青社  〒164-0011 東京都中野区中央5-18-20  tel.03-3380-7123  fax.03-3380-7121  e-mail:gallery@tosei-sha.jp